【オモテ面】

障がい福祉の現状を語るときに『8050問題』の話題が出ることが多くあります。
この『8050問題』は、本来は「ひきこもり」の方々に関する社会的課題として語られている問題なのですが、
実際には障がい福祉と関連する課題が数多く存在し、障がい福祉のあり方を考える際に無視できない課題となっています。
今回は、この『8050問題』に関して考えてみたいと思います。

平成年間に定義された
「ひきこもり」
という言葉と概念

 「ひきこもり」とは、厚生労働省によると以下のように定義されています。
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「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。
「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではなく、様々な要因が背景になって生じます。ひきこもりのいる世帯数は、約32万世帯とされています。
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/02/02.html
出典:三宅由子、地域疫学調査における「ひきこもり」の実態調査(平成16年度厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業)より
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 「ひきこもり」という言葉は以下のように元々は和訳から始まりました。
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 当時、アメリカ精神医学会が編纂したDSM-Ⅲという精神科の診断基準に、Social Withdrawal(ソーシャル・ウィズドローアル)という言葉が記されていました。これは診断名ではなく、統合失調症やうつ病の精神症状の一つだったのです。直訳すれば「社会的ひきこもり」です(「社交不安障害」と同様に「社交的ひきこもり」が適切であると言う人もいますが、字面が語義矛盾にみえるのが難点です)。この言葉のルーツは元々、英語だったのです。
出典:「ひきこもりという概念の歴史(1)」
https://medicalnote.jp/contents/150722-000005-CTDROY
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長期化、高齢化した
「ひきこもり」により生じた
『8050問題』

 いずれにしても「ひきこもり」という言葉が使われるようになり始めた頃に20歳前後の若者も、「ひきこもり」状態が長期化し、その後約30年が経ち、当事者が50代となり、その親世代が80代となっています。親世代が元気な内は「ひきこもり」である子世代の生活を支えてこられたのですが、親世代が老齢化し、むしろ介護が必要となるような状況において50代となった子世代をどのように支えていくのか?様々な理由から外部への相談も難しく、親子で社会から孤立した状態に陥っているのです。このような2010年代以降の日本に発生している中高年齢者の引きこもりの親子関係に関する社会問題、これが『8050問題』と呼ばれるものなのです。
 名付け親は大阪府豊中市社会福祉協議会所属のコミュニティ・ソーシャルワーカー勝部麗子さんとされています。
 このような『8050問題』に関して、長年その実態調査がされていませんでしたが、平成31年3月に内閣府より発表された『生活状況に関する調査 (平成30年度)』により、40歳以上の「ひきこもり」の実態が明らかにされました。この調査結果によると「満40歳から満64歳までのひきこもりの出現率は1.45%で、推計数は61.3万人であること」が明らかになっています。
出典:「特集2長期化するひきこもりの実態」
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/s0_2.html


■生活状況に関する調査 (平成30年度)
  https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html
■下段は平成27年実施の15~39歳を対象とした「若者の生活に関する調査」の結果

 この『8050問題』は必ずしも障がい者を対象とするものではありません。ただし各種の意見があるものの、調査の定義においても「原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。」と表記されています。
 さらに重要なのは、障がい者とは異なり「ひきこもり」の方々は何の認定もされていないため、何らかの支援の対象者ともなっていないという事です。
 特に昨年来の新型コロナ禍においては、子世代の行く末を心配される親御さんも多く、その心情を拝察すると胸が張り裂けるような気がします。
 この『8050問題』の解決のためにも当法人においては『一室でも多く、一日でも早く。』との思いからパートナー法人様含め活動を続けています。

【ウラ面】

東京都における
ひきこもりに関する支援状況等
調査によって見えるもの

 前述した内閣府による調査以外にも最近では東京都によって『ひきこもりに関する支援状況等調査』が令和2(2020)年9月~11月に実施され、中高年者の「ひきこもり」ならびに『8050問題』の実態がより明らかになっています。
 下図は、その調査結果を回答内容の構成比率の円グラフで表したモノですが、各グラフの下のコメント欄にそれぞれの特徴が表記されています。
 まず「ひきこもり」の当事者の年齢が40歳代15.4%、50歳代9.2%、60歳代以上3.1%と40歳代以上で27.7%と3割弱となっています。
 また主な生計維持者は親の75.1%と実に3/4を占め、親世代が60歳代23.4%、70歳代15.7%、80歳代以上が6.9%と合計で46%となっています。
 これらのデータを見ても40歳代以上の中高年層の「ひきこもり」が想像以上に多いことが分かります。
 前述したように「ひきこもり」=障がい者とは断定出来ませんが、これらの各種調査も回答があった分のみの集計であり、未回答、あるいは調査の対象にすらなっていない方々を含めると『8050問題』は大きな社会的課題であり、解決に向けて真剣に取り組まなければいけない課題であると考えます。

■東京都Webサイトより ひきこもりに関する支援状況等調査結果について
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/04/26/12.html

『8050問題』解決の
受け皿としての
グループホームの必要性

 「ひきこもり」になった、あるいはならざるを得なかった背景を推察すると、そこには何らかの障がいが関係しているのは想像に難くありません。
 障がい者の方々の場合は「障がい者手帳」の発行により、年金や各種公共サービス、福祉サービスの供与を受ける権利が認められています。しかし、「ひきこもり」の方々は何の認定もなく、公的援助・扶助を得ることが出来ません。
 当法人のグループホームのご利用者の方々の中には、親御さんとの二人暮らしであった方も多いです。親御さんが高齢化にともない高齢者介護施設に入居され、ご本人は一人暮らしになったが、生活がままならず、民生委員さんや地方自治体の福祉課の職員さん等のご尽力により当法人のグループホームが紹介され、障がい者認定を受けられて、ご利用されるケースがみられます。ただし当法人の手がける障がい者グループホームは、障がい者(障がい者手帳等の保有者)であるか特定難病の方でないとご利用いただけませんので、実際のご利用にあたっては、ご相談いただく必要があります。
 『8050問題』は、最近では『7040問題』とも言われ、40歳代の当事者と70歳代の親世代という組み合わせでも同様の社会的課題が発生していると言われています。この『8050問題』あるいは『7040問題』は、親子における社会的課題でもあり、これまでも親による子殺し、親子による心中事件など悲惨な事件につながっています。
 この問題を難しくしている原因の一つには、障がい者認定を受けること自体に抵抗感をお持ちの方々がまだまだ多い、という事です。これは親世代の方が「我が子を障がい者と認めたくない」というケースもあれば、子世代の当事者が「自分を障がい者であると認めたくない」という考えでおられる場合の両方が存在すると言われています。
 私たちは日々、ご利用者の皆様とお相手させていただいて感じるのは、障がい者である方もそうでない方も何も変わりはない、という事。
 障がい者であることは何も問題ではなく、それぞれの個性である、という認識、新しい常識が広がり定着していくことを願ってやみません。